仕事を辞めると、人間は貯蓄でも無いかぎりは働いてお金を得ないことには生きていけません。
いつだったか、面接先に持っていく履歴書を書いているとき、志望動機の欄に「生きる為には働いてお金を稼がないといけないからです」としか書けない呪いにかかって履歴書を何枚も無駄にした挙句、新しい履歴書を求めて近所のローソンに足を運んだ思い出があります。僕はそんなめんどくさい人間です。
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僕は新たに就職した職場で第二種免許を取得することになり、教習所通いと勉強の結果、学科試験と適性検査を無事一発でパス。
......した所までは良かったのですが、その後の実技試験でそれまでの全てを帳消しにする有り得ないミスをして見事に落ちました。
言ってしまえばそれだけのことなんですが、今回はそれまでの色々が重なったのもあり自分に失望して幻滅し、大きな怒りを覚えました。
「創作の一番の原動力は怒りですからね」
僕の好きな作家が言っていた言葉です。
僕は自分の事を話すのが嫌いだし、彼と違って創作を生業にしていませんが、これをきっかけにその言葉を実感出来た気がします。
これを書くということが創作に当たるのかは分かりませんが、とにかくそんな僕にこんな記事を書かせるほどにKOMA(こま)は激怒したんです。必ず、かの邪智暴虐の試験場を除かなければならぬと決意しました。
物には足が生えていて、それぞれが自分の意思で動くということは、これを読んでいる皆さんや世間一般にも周知の事実だと思うのですが、つまり何が言いたいかと言うと、あのポールと試験場はグルだったんですよ。
だって、なぜ縦列駐車を無事に終えたあとそこから出るときに、左前方のバンパーをポールにぶつけてしまったのですか? 普通そんなミス有り得えないでしょう。
おそらく「当日は運転しやすい格好と靴で来校してください」という指示や、普段から「もっと動きやすい服装で来ても良いんですよ(笑)」という教官に対して、当日含め頑なに黒シャツ黒スーツに革靴で通い続けた僕への当て付け、反感を買ってしまったんでしょうね。
自分の近況を知る人間に「こんな格好のヤツが落ちたら面白すぎるよね」って冗談交じりに話していましたが、まさかこんな形で現実となってしまうとは。
この記事を読んでいる一部一握りの人間、タイトルや本文を見て「あれ?」と思っていることでしょう。そうです、ホストはもう辞めました。そんな格好で通っていたのは次の職場では別にそれでもギリ許されるのと、それっきり袖を通さないのがもったいないから。あと白状すると正直気に入ったし、何着ていくか迷わなくていいって点でも楽だよね、などの話はまた別の機会にしますが。こんな感じで、僕がそんな格好だったのはこんな理由からです。
話を戻します。
緊張ってなんなんでしょうね。
学科試験と適性検査を終えると、始めは十人くらいいた二種免許の受験者から残ったのは僕とYさんの二人だけでした。
見たところ僕の倍くらいは歳を重ねているであろうYさん。
ロビーに二人でベンチに座って話していると、謙虚で物腰の柔らかいYさんは自分のことを「あがり症」だと言いました。確かに、コーヒー飲んでないのに何度も何度もトイレに行くし、目で見てハッキリ分かるくらい手も震えていたし、どうやら嘘じゃないようでした。
その様子を見て僕は「そんなに緊張することか?」と思っていました。自分基準で言えば、最近だとホストクラブで初回に着くときの緊張感といったらこんなものではありませんでしたしね。
少なくとも自分は目の前のその人間よりは緊張との付き合い方を知っているし、場数も踏んでいる。正直、心の中で少し馬鹿にしていました。
Yさんと比べ心に余裕のある僕は、これからの試験についてなど話す中で
「バス停は事前に僕が全て撤去しておきました」
「横断歩道は全て黒塗りして潰しておきました」
「そもそも緊急事態宣言を発令しておいたので車も人も外には誰もいません(不謹慎)」
など、今思うと本当に恥ずかしいんですが、ぺらぺらと徐々にお得意のでまかせ虚言癖モードが発動。俺はお前と違って緊張してないんだぞ、というある種のマウント。気持ち悪いですね、お前も撤去されてしまえばいいのに。
そうやってお互いにくすくす笑って過ごす中で、これから試験だというのに僕は完全に普段の自分のペースを取り戻してしまいました。緊張感を無くしてしまったのです。
やがて放送で試験開始のため発着場に呼び出される僕達二人。靴底で床をカツカツ鳴らしながら発着場に向けて歩く黒シャツ黒スーツ男。
道中、他の試験者の待つ待機場を通ると、そこでは一種免許や二輪などの他の受験者の方々が静かに待っていました。
音を立てる事が罪みたいな緊張感。そしてその場で床をカツカツ鳴らしながら歩く黒シャツ黒スーツ男。僕の人生で一番人目を引いた瞬間だと胸を張って言えます(笑)
そうして僕は無敵になりました。
間違いなく全身が七色に光っていたと思います。
その場の空気から試験の合否までも操作できる、全ての支配者となりました。
実技試験は受験者二人と試験官一人の計三人が一緒の車に乗り、受験者は運転をそれぞれ交代しながら場内→場外と行われます。
採点は持ち点100点からの減点方式で、80点を下回った瞬間に試験終了(失格)です。場内試験を終えた時点で持ち点が80点残っていれば第一関門突破。残り持ち点はそのまま、場外試験への参加資格を得ます。
順番は先にYさん。
運転席に乗り込んだYさんは、後部座席に座った七色に光り輝く僕の存在のせいか、助手席の試験官を横にルームミラーの調整に手間取っていました。Chu! 眩しくてごめん。
試験が始まると、はじめは僕が「心の中で少し馬鹿にしていた」Yさんですが、話しているうちにすっかり情が移ってしまった僕は心の中でずっと100%の善意で応援。その応援あってかYさんはなんと、ただの一度の危うさもなく場内試験を無事に終えました。
試験前はあんな様子だったYさんがそんな流れで僕にバトンを渡してくれるという熱血スポ根漫画みたいな展開。Yさんとポジションを交代し、ハンドルを握ります。
場内試験の内容はYさんと同じ縦列駐車と右折の鋭角。
そしてまずは縦列駐車。
前述のことで本番の緊張感が全くなかったので、普段通り練習のようなテンションで縦列駐車に取り掛かりました。
ですがここで予期せぬ出来事が。
何を間違えたのか、いつも通りやったのに角度が決まらずに一発で駐車出来なかったんですよね。
ですがそこで乱れることも無く、二度ほど切り返して無事に駐車を終えました。
「緊張によるミスの原因は、緊張から普段の状態が崩れてしまうことだ」
それは自分の持論なんですが、そんな事態になっても変に緊張することなく無事に回避出来たことに「ミスしても上手くやれたのは普段の精神状態から崩れなかったからだ」と、自分の持論の裏付けができたことで、そのことから
「大丈夫だ。やはり落ち着いていれば上手くいく」
と安心感を覚えつつ言い聞かせ、試験官に「駐車完了」を宣言。
「では次鋭角行きましょうか」
と、試験続行の言葉をもらった僕は、次の瞬間やらかしました。
「なぜ縦列駐車を無事に終えたあとそこから出るときに、左前方のバンパーをポールにぶつけてしまったのですか? 普通そんなミス有り得えないでしょう」
これは、駐車のとき「二度ほど切り返す」というイレギュラーが発生していたのに、そんな状況でもいつも通りあろうとした僕のミスです。
というのも、練習での縦列駐車では終わった後に出発するためのスペースなんて毎回勝手にガラ空き状態になっていたし、目で確認するまでもなく毎回そのまま出発出来ていたので、その時もまさかぶつかるなんて考えは微塵も頭に浮かばなかったんですよね。
でもそれは一発で駐車が決まっていた練習での話です。確かにいつも通りだったら有り得ない話だったかもね。
そもそも「自分は落ち着いている」なんて自分に言い聞かせた時点でテンパってたのかもしれません。っていうかそんな状況になったらもっといろんな所見るだろ、普通。
言い訳してもしょうがありませんね。
おそらく、試験のときは角度を直したあとの後退が足りてなかったんでしょう。
出発する時のハンドルの角度が足りなかった、っていう線は薄いと思うので。
もう何も分かりません。緊張ってなんなんでしょうね。少しは分かったつもりでいたんですけど。
そしてYさん、いろいろとすみませんでした。
即失格になった僕はすぐ運転を代わり、その後Yさんと試験官の二人だけを乗せたその車は僕に見送られながら場外試験へと走って行きました。
最後に運転を変わるとき、Yさんと何かを話した記憶があるけど何喋ったか覚えてないです。例のでまかせ虚言癖が発動して変なこと言ったかもしれないです、すみません。ちなみにその後のYさんの合否を僕は知りません、無事受かってたら良いな。
僕はなんて小さくて無力な人間なんでしょう。自分で自分が恥ずかしいです、ボタン一つで自爆出来たらいいのに。
そして僕は年内に実技試験の再試験があるみたいです。
この反省を踏まえて次は黒シャツ黒スーツ革靴じゃなくて白シャツ白スーツ白革靴で行こうなんて考えてしまうのは僕の悪い癖です。
最後まで読んでくれた方々、ありがとうございました。